Noisy Creature

箱に秘めたる払暁の刃

5,海賊と子供 その6

 ショロトルの答えに、レクターは頷いた。
「確かに、複雑な事情を抱えているだろう。だがな、それでどうしてお前が出る。ミカエルと互いの印象は最悪だろう」
「俺は盗賊上がりだから、単独行動は慣れてる。陸での活動にも、だ。いざという時は荒事もできる」
 エスメールの街は、略奪を働いた相手が目的地としていた港だ。ワードック一味の人間が、派手な動きをするわけにはいかない。船を近づけるのも愚策だ。
 その上で、子供を拐かしていた何者かが取り返しにくる可能性を考えなければならない。交戦の可能性があるのなら、最低限の戦力は必要だ。
 聖痕者のショロトルならば、並みの人間と比べても実力は折り紙付きだ。それを認められているから、船を襲う時の露払いを務めている。家を失ってから一人で盗賊をしながら生き抜いてきた経験も。理由なら十二分にある。
 というのが、建前だった。
 真実はもっと個人的で、感情的な理由だ。
 船に舞い込んだ災厄を、自分の力で払いのけたい。役に立って存在価値をレクターに示したい。
 そんな子供っぽい感情は、見抜かれているのだろうか。
 自分よりもずっと優れた人間を前にした時、心の奥底の感情まで全て見抜かれているような気分になる。
 だから彼の問いに答える時、いつも以上に不安になるし、慎重になる。
「お前は信じるのか、街一つ購えるという宝の話」
 レクターは信じていないのか。信じているから、ミカエルの話を聞いたんじゃないのか。
 この問いの正解はどっちだ。
 わかることを考える。いま自分に答えられることを。
「あのガキが背負っている面倒は、根拠になると思う。金をかけて運ばれていたんだから、それに見合うくらいの価値は持っているんだろう。だけど、……判断がつかない。俺にはわからない」
「なら見極めてこい。あの子供が、街一つ購えると言い切った、その財宝がなんなのかエスメールの街で、お前が確かめるんだ」
 任せてもらえた。
「わかった」
 言われた言葉の一つ一つを噛みしめる。
 これが今のできること。彼に任せてもらえた信頼の全て。

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